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「メンヘラ」

あくまで個人的な感覚だが、「メンヘラ」というインターネット発祥の単語はこの5年くらいでインターネットとそこまで関りのない人々にも知れ渡り、急速に人口に膾炙するようになったのではないかと思う。少なくとも僕個人の実感として、5年前の段階では普段の会話に「メンヘラ」という単語はそうそう出てくるものではなかった(インターネット上ではしばしば目にした)。

 

そんなメンヘラという言葉も、今では至るところで目にし、耳にする「軽い」単語になった感がある。少し感情の起伏が激しかったり、情緒が不安定だったりすると(冗談で)メンヘラ扱いされる時代である。恐ろしい時代だ。本当のメンヘラに関わったことのある人間としては、そう簡単に人をメンヘラ扱いできるものではない。少し感情の起伏が激しかったり、情緒が不安定な人間などむしろかわいいウサギちゃんのようなものだ。美味しんぼの山岡さんのセリフを拝借しよう、「明日、もう一度来てください。本物のメンヘラをお見せしますよ」。

 

さて、それでは明日とは言わず、今から僕が過去に知り合ったメンヘラのお話をしよう。ちなみにこの人、今ではすっかり脱メンヘラして立派なお嫁さんになっているので、あくまで過去のお話であるが、分かりやすいように以下では「メンヘラちゃん」と表記しておく。

 

僕とメンヘラちゃんの出会いはインターネット(Twitter)だった。何の関係でフォローされたのかも忘れてしまったが、もう5年くらい前(2013年?)の話だと記憶している。当時僕はTwitterにドハマりしており、活発にネット活動をしていた(婉曲表現)こともあって、何かの機会に彼女の目に留まったのだろう。彼女もまた、活発に活動する人だったので、タイムライン上で頻繁にやり取りをするようになるまで、そんなに時間はかからなかった(この時はまだ、彼女がメンヘラだとは知らなかった)。

 

彼女は日本列島の上の方に住んでいる、1つ年下の女子大学生だった。たまに顔写真も公開していたのだが、とても可愛らしい顔つきの女の子だった。当時の僕はバカだったから、ネット上でも散々可愛い可愛いと言って(実際に可愛いのだ)必要以上にチヤホヤしていた記憶がある。だからだろうか、彼女は僕に気を許してくれたのか、いわゆる「裏垢」を教えてくれた。そして僕は、その裏垢を見て初めて、彼女がホストクラブにハマっていること、夜の世界でお仕事をしていること、————そしてガチモンの「メンヘラ」であることを知った。

 

それなりに昔のことだから、どの時系列かは分からない。彼女がホストクラブにハマったから夜の仕事を始めてメンヘラになったのか、もともとメンヘラだった彼女が夜の仕事を始めてホストクラブにハマったのか、どれがどうだったかは記憶に残っていない。ただ、彼女がホストクラブでかなりの散財をしている「ホス狂い」で、その資金を稼ぐために夜の街で男に身体を売る「風俗嬢」で、そしてかなりの頻度で手首を切り刻む「リストカッター」であったことは間違いない。今思えばメンヘラのテンプレートのような高度プロフェッショナル人材だった。

 

過去のツイート履歴を遡れば、リスカ写真が出るわ出るわ、宝(?)の山だった。それも、最初の頃は1度につき1本のリストカットなのだが、それが時間がたつにつれ、1度につき複数のリストカットをするようになるのだ。1本のリストカットであれば、少し料理で包丁の使い方を誤った時に見るようなものだからダメージも小さいのだが、複数切り付けられたリストカットはそれはもう大変なことになる。知り合いとメンヘラの話になったとき、僕はよくこの話をするのだが、マジモンのリストカッターの手首は楽器の「ギロ(下の画像参照)」のようになっている。これは冗談でも誇張でもない。

 

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よく言う話だが、リストカットをするメンヘラは死ぬためにリストカットをするわけではない(もちろん自殺の手段としてリストカットする人もいる)。ありがちな理由を挙げれば、自分が生きていることを実感するとか、心を落ち着かせるためにリストカットするそうだ。という訳なので、死を目的としないリストカットは普通、そこまで深く手首を切ったりはしない。しかし弘法にも筆の誤りというように、メンヘラにもカミソリの誤りが存在する。リストカット常習者でもたまに手元が狂うこともあるらしく、思ったより深く手首を切ってしまうこともあるらしい。少しグロい話になるのだが、そんな時は、血まみれの手首の中から白いモノ(これが何なのかは分からない)が見えるのだ。

 

何で僕がリストカットについてそんなに詳しく知っているかというと、メンヘラちゃんリストカットするたび、逐次その現場を写真に収めたうえで、ご丁寧に説明付きでTLに投稿してくれるからである。当然、予告などない。夜寝る前、布団に入ってTwitterのアプリを開きTLをスクロールしていたら、画像の8割が赤色のピクセルで占められたグロ画像が出てきたときを想像して欲しい。普通に叫び声をあげてスマホを放り投げそうになるのではないだろうか。また、これはあくまで「たまに」ではあったが、いきなりTwitterのDMでリスカ画像が送られてくることもあった。「今日の晩御飯」くらいの感覚で、「今日のリスカ」の画像が飛んでくるわけである。本当にとんでもない話だ。

 

メンヘラちゃんリストカット以外にも、様々な自傷行為をしていた。手首以外にも、普段人目につきにくい腕を切る「アムカ(アームカット)」をしたり、意図的に髪の毛を引き抜く「抜毛」をしたりしていた。あとこれもメンヘラちゃんだったか定かではないのだが、薬を過剰に服用する「OD(オーバードーズ)」をして救急車で運ばれたこともあったような気がする(他のメンヘラかもしれない)。ということで色々な自傷行為を経験したメンヘラちゃんだったが、彼女の発言で興味深いものがあったので、この機会に紹介したい。メンヘラちゃん曰く、最も身体に害が少なく人目も気にならない自傷行為は、「深爪」だそうだ(冗談ではない)。もし読者の方の中に、自傷行為をしたい衝動に駆られた方がいたら、その時は一旦冷静になって爪切りを取り出し、あえて深爪してみてほしい。深爪することで痛みを感じ、生きていることを実感できるのであれば、なんて素晴らしいことじゃないだろうか。

 

また、ホストクラブ(の闇)に関する知識も無駄に身についた。この辺りはもう書く気も起こらないので、Twitterの検索などで「たんとぴ」とでも検索してみてほしい。恐ろしい魑魅魍魎の渦巻く世界である。

 

ちなみにこういう世界を少しでも垣間見たことがあれば分かるのだが、「ホス狂い界隈」と「風俗嬢(≒水商売)界隈」、そして「整形界隈」は非常に親和性が高く、大部分が重複している。いわば、この3つは闇の三角形だ。このトライアングルに入るきっかけは、大体ガールズバーやキャバクラ等の水商売である(だから「風俗嬢(≒水商売)界隈」と書いた)。そこで多くの人は先輩や同僚に連れられてホストクラブに通い始め、沼にハマる。するとお金が足りなくなり、いくらかの人は風俗嬢にキャリアアップする。そしてこの辺りで、整形が姿を現す。水商売や風俗業での指名率を上げるため、あるいは「担当」の興味を惹くため、整形に手を出す。整形にもお金がかかる。仕事をさらにハードにする。こうして闇の三角形をぐるぐるぐるぐる回り続ける人が多いらしい。とんでもない世界である。

 

メンヘラちゃんは整形はしていなかったようだが、ホス狂いと風俗沼にズブズブだった。風俗で身体を売って稼いだ大金を、一晩で散在することもあったみたいだった。本当に「狂」っていたので、金を持っていると不安になっていたらしい。僕が2年生のころ学祭でスマホをパクられたのだが、新しいスマホを購入する資金を貯めるのに苦労しているとツイートした瞬間、メンヘラちゃんから「お金出してあげる」というDMがきたこともあった。理由を聞くと、「まとまったお金を持っているとすぐにホストにつぎ込んでしまうから、無理してでも持ち金を少なくしたい」という、意味の分からない理由だった。結局お金は貰わなかったが、あれは本当にホストに狂っていたんだと思う。

 

また、風俗嬢としても面白いツイートをたくさんしていたので、色々と風俗界隈に関する知識を得ることができた。さすがにブログに書けるような内容ではないので自重するが、彼女は風俗嬢としてものすごい経験を積んでいた。メンヘラちゃんは、年齢的には僕よりも1つ年下だったのだが、人生経験としては僕の何万倍も多くの経験値を貯めていたのではないかと思う。ちなみに直近ではSMバーで働いていたらしく、この間連絡を取った際はSM業界に関する最新情報をたくさん教えてくれた。もしSM業界についてもっと詳しく知りたい方がいれば、直接僕にコンタクトを取ってほしい。

 

とまあこんなところである。後半の方はあまりメンヘラとは直接関係のないことを書いてしまった。これ以外にも色々とメンヘラエピソードはあるのだが、メンヘラという特質上、なかなか公開用のブログには書くことを躊躇う内容のものが多いので、この辺りにしておこうと思う。結局、世の大学生が言っているようなメンヘラなんて、大したものではないのだ。個人的には、自傷行為の現場を撮影した画像を送りつけられてからメンヘラ扱いしろと言いたい。「彼氏に会えなくて寂しい」とか言ってるレベルの人をメンヘラなんて言ってたら、手首がギロ状態になっている人は何になるんだ。

 

いきなりスケールのぶっ飛んだ話になるが、僕は「人間としての厚み」は、多様なバックグラウンドを持った人と接触し、そしてそれらの人から多様な価値観を摂取することによって形成されると考えている。例えその人が歳を取っていて、それ故にたくさんの人間と出会っていたとしても、似たような人間とばかり接触し、凝り固まった単一の価値観に固執し続けているようであれば、その人の「人間としての厚み」は薄っぺら~いものだと考える。そういう意味では、メンヘラちゃんの存在を知れた(なお、直接会ったことはない)ことは、僕の「人間としての厚み」を増す大きなきっかけになったように思う。メンヘラちゃんと関りを持ったことにより、精神の振れ幅がぶっ壊れている人がどのような行動を採るのかや、風俗業界ではどのような行為が迷惑がられるのかや、ホストクラブがどうやって女性から金を搾り取るのかといった、大学院で研究するだけでは絶対に知ることのできないことを知ることができた。少なくともこういった知識を得たおかげで、僕には精神の振れ幅がぶっ壊れている人に対し、拒否反応を示すことなく理解し、ある程度は優しくすることができる。また、多少感情の起伏の激しい人であろうと、寛容に接することができる。だからこそ、僕は世にいる人を簡単にメンヘラ扱いする人に対し、「汝、メンヘラを知れ」と言いたいのだ。