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大学院生と就活相談

僕は大学院生だから、大学生と会話する機会が(同い年の社会人と比べれば)多い。

 

「大学院生」と「大学生」は「院」という漢字が1文字入るか入らないかの違いしかないように見えるが、色々な部分で違いがある。大学院で学び、研究活動を行っていくうえで、(研究分野に関する)専門的な知識はもちろんのこと、論文執筆に必要な論理構成力や文章力、少人数講義によって培われるディスカッション能力など、学部教育では十分に身につけることが困難なスキルが身につくので、大学院生と学部生ではそういった面で大きな違いがある。というか、そういった違いが無いのであれば大学院に進学している意味が無い。

 

さて、僕個人としては、「同い年の人間のかなりの部分が既に社会人として活躍している」という点が、大学院生を大学生と比較したときに現れる、まあまあ大きな違いになるんじゃないかと最近考えている。

 

僕は大学院生なので、TA(ティーチング・アシスタント)の立場上、学部生の就活に関する相談を受けたりする機会が結構ある。僕は人生で一度も就職活動をしたことが無いので、そんな人間を相談相手に選んでいてこの人は大丈夫なのかと思うのだが、相談を受けてしまった以上とりあえず話は聞かないといけないし、出来得る限りのアドバイス的なこともしなければならない。そんな時、僕は大学院生としての立場から以下のようなアドバイス(?)をすることにしている。ちょっと長くなるけども、せっかくなのでこの機会に書いておこうと思う。

 

僕は大学院生だから、同級生のほとんどはもう社会人だ。今現在であれば、僕は大学院3年目になるので、同級生のほとんどは社会人3年目になるだろう。さて、いきなりスケールの大きな話になるが、厚生労働省は毎年「雇用動向調査」という調査をしている。その調査によれば、就職した大卒の人間のうち、大体30%前後の人間は一度就職した職場を3年以内に辞めている。大体20%の大卒は入社2年以内に離職するし、大体10%の大卒は入社1年以内に離職する(下のグラフ参照*1)。ものすごくざっくりといえば、大卒のうち大体3人に1人は入社してから3年以内に離職するということになるだろう。そう、意外と日本人はすぐに仕事を辞めるのだ*2

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就職後3年以内離職率の推移(大学卒)

(出典)「新規学卒者の離職状況」 厚生労働省HPより

 

実際僕の身の回りを見てみても、まあまあの割合で大学卒業後に就職した職場を辞めている人がいる。入社後2か月でいきなり仕事を辞めて今も夢を追い続ける人もいれば、入社して1年でより高い収入を求めてジョブチェンジした人もいるし、入社後2年間馬車車のように働いた結果、過労による鬱を患い退職して実家に引きこもってしまった人もいる。それ以外にも、実に数多くの離職者を見てきた。

 

さて、既に述べたように、僕は就職活動をしていない。その意味では大学生と何ら変わりはない(むしろ4年生には劣るかもしれない)。しかしながら、既に社会に旅立っていった人をたくさん知っているという点においては、大学生とは大きく異なる。逆に言えば、大学生の多くは浪人でもしていない限り、身近な人が社会に出た後どうなるかはあまり知らないことが多いだろう。だからこそ、この点からアドバイスをしたいと思う。結論から先に言えば、1つの会社で働くということにこだわり過ぎる必要はないということだ。

 

身の回りにそういう人が実際にいないと実感できないと思うが、意外と多くの人間は、就職してから数年のうちに仕事を辞めるものだ。もちろん仕事を辞めるにあたっては色んな理由があるけれど、大体3割くらいの人間は大学を出てから3年以内に仕事を辞める。仲の良い3人の友人を思い浮かべてみればいい。計算上、そのうち1人は社会に出てから3年以内に仕事を辞めるのだ。

 

就活の話を聞いているとき、よく聞くフレーズに「これから40年間働く会社」というものがある。確かに日本企業の特徴に挙げられるように、これまでの日本では年功序列の終身雇用が一般的だった。だから、就活生の多くはその企業に就職すればその後定年までずっとその企業で働くと考えるのだろうし、それこそ「御社に骨を埋める」くらいの気持ちで血眼になって就職先を探すのだろう。確かにその気持ちは分かる。分かるんだけども、もう少し肩の力を抜いても良いんじゃないだろうか。

 

何度も述べているように、大卒の3人に1人は就職してから3年以内に仕事を辞める。それに、これから恐らく「年功序列の終身雇用」の労働形態は崩壊していくだろう。そうなった場合、今よりもっと離職率は高くなる。すると、まあまあの割合の人にとって、1つの企業で40年働き続けるという想定が必ずしも適切ではない可能性がある。であれば、就職先にめちゃくちゃ高いハードルを設けるのではなく、大学を卒業してから働く就職先は、あくまでより良い職場を見つけるまでに必要なスキルを習得するための「つなぎ」である、くらいの軽い気持ちで挑んでもいいんじゃないかと思う。「御社に骨を埋める」のではなくむしろ「御社の骨の髄までしゃぶり尽くす」くらいの精神である。当然、そんなことを面接で言えば高確率で落とされるので、あくまで意気込みの話ではあるが。

 

もちろん就活生のほとんどはこんな闘争心にたぎった血気盛んな若者ではないと思う。とりあえずホワイトで安定していて、それなりの収入があれば良いという人も多い。むしろそんな人の場合、「この企業でも大丈夫だろうか……」「自分はこの企業に合っているんだろうか……」という不安に駆られることが多いだろう。しかしそんな不安を持っている人にこそ、この「新卒のうち3人に1人は3年以内に離職している」という圧倒的な現実を伝えてあげたい。要は、イメージと違っていれば辞めればいいし、体質に合わなければ辞めればいいのだ。そうやって仕事を辞めている人も、この日本には意外なほどたくさんいるのだ。こう考えれば、少し楽になるんじゃないだろうか。

 

僕は就活をしていないから、就活に関する直接的で有益なアドバイスをすることは困難だし、僕が何を言おうが「でもお前は就活していないじゃないか」と言われると、何も言い返すことはできない。それでも、僕の身の回りに社会人3年目以内に仕事を辞めている人が意外といることは事実だし、それが全国的に確認される現象であることは、厚生労働省の調査結果という客観的なエビデンスからも明らかである。だから、僕はこれらに基づき、「確かに就活してると悩むと思うけど、意外とみんなすぐに仕事辞めてるし、そんなに深く悩まなくても大丈夫だと思うよ」と声をかけるのだ。

 

さらにいえば、追い込まれている人ほど、視野は狭くなる。そういった状況に陥っている人を見かけたときは、追い込まれていないが故に視野が狭まっていない人が、その広い視野に基づいたアドバイスをするべきだろう。その意味では、就活に悩まされていない大学院生のコメントというのは、意外と役に立つのかもしれないとも思うのだ。

*1:黒が入社1年目の離職率、白が入社2年目の離職率、青が入社3年目の離職率

*2:もちろん、職種や業種によって離職率には差があるし、当然企業によっても離職率は異なる。要は、日本の大卒者全体で見たとき離職率はこうなるということであり、この点に留意していただきたい